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研究について

研究内容

私たちの研究室ではRAGEというタンパク質を中心に研究を展開しています。
Q&A形式で私たちの研究をできるだけわかりやすく紹介してみようと思います。

1.RAGEって何?

 RAGEは、細胞の表面からつきだし、細胞の外から来る情報を受け止める、受容体といわれるタンパク質の一つです。いわば細胞のアンテナのような働きをしています。RAGEという単語をそのまま英和辞典で引くと「激しい怒り」という意味が書かれています。たしかにRAGEはさまざまな病気で荒々しい症状をひきおこします。ただ、RAGEの名の由来はもちろん「怒り」ではありません。糖尿病などで体の中に増えてくるAGE (advanced glycation end-products, 終末糖化産物)と結合する受容体(receptor)として見つけられたため、AGEの受容体 ”receptor for AGE, (RAGE)” と名付けられたのです。

2.RAGEはどうして病気をおこすの?

 RAGEが糖尿病をおこすわけではありません。ただ、他のいろいろな原因で糖尿病になってしまったあと、眼や腎臓が悪くなるのを早めているようなのです。RAGEは血管の細胞の表面からつきだしていて、AGEが血液の中を流れてくるとRAGEに結合します。すると、その信号が細胞の中に伝わり、血管の細胞はいろいろな変化を起こします。その変化が体にとってよいものなら問題ないのですが、糖尿病のように血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高い状態が続くと、ブドウ糖が勝手にいろいろなタンパク質とくっついて化学変化をおこし、そのタンパク質をAGEに変えてしまいます。つまりAGEがどんどん増えてくるのです。するとRAGEに結合するAGEも増えて、細胞の中に強過ぎるRAGEの信号が伝わり、細胞はちぐはぐな変化をおこしてしまいます。例えば、糖尿病では眼で光を感じている網膜が傷害されます。網膜を走る毛細血管にAGEがたくさん流れると、その信号によって血管の内張りをしている細胞(血管内皮細胞)は分裂して増え始めるのに、毛細血管を外側から支え、破れないように守っている細胞(血管周皮細胞)は増殖をやめてしまいます。外側からの支えなしのに管を作って伸びていった毛細血管はやがて破れ、結局ふさがってしまいます。こうして血管が寸断されてしまうと、網膜にはもう十分な血液が流れなくなり、失明してしまうのです。実際、日本では、生まれつき目が見えない人を除くと、糖尿病が失明の一番多い原因になっています。糖尿病では、腎臓の血管も、やはり強すぎるRAGEの信号のため傷害され腎臓の働きが悪くなってしまいます。

3.そんなことどうやって調べたの?

 私たちはまず、血管の細胞(内皮細胞や周皮細胞など)をプラスチックディッシュの中に取り出して培養し、その培養液の中に自分たちで作ったAGEを混ぜて、細胞がどのように変化するかを調べました。また、取り出してきた血管細胞に人工的にRAGEの遺伝子を入れてやることによって細胞表面にRAGEが多くつきだしている細胞を作り、AGEに対する反応がどう変わるかを調べました。このような研究で、上に述べたように、多すぎるAGEによる強すぎるRAGEの信号は血管にとってよくない作用をすることを突き止めました。しかし、体の中で実際に血管を形作っている細胞と体から取り出して培養した細胞とでは、やはり反応が少し違うかも知れません。それを確かめるために、私たちは、マウスの遺伝子に手を加えることによって、血管の細胞がふつうより多くのRAGEをつきだしている、つまり信号が強く伝わりやすい性質をもつマウスを作り出しました。そしてこのマウスを糖尿病にすると、ふつうのマウスより腎臓の病変がはるかにひどくなったのです。この報告は、糖尿病で腎臓が悪くなる時にRAGEが重要な役割を果たしていることをはっきりと示した世界で最初の論文になりました。その後、逆にRAGEがまったく作られないマウスを作って糖尿病にしてみると、腎臓はほとんど悪くなりませんでした。やはりRAGEの信号が腎臓を悪くする原因だったのです。

4.RAGEが悪さをするのは糖尿病の時だけなの?

 現在ではRAGEに結合して細胞の中に信号を伝えてしまう物質はたくさんあることがわかっています。例えば、がん細胞が転移するときに大事な働きをするHMGB1というタンパク質や、アルツハイマー病で神経細胞を傷害してしまうアミロイドβタンパク質なども、AGEのようにRAGEに結合して細胞に信号を送ります。どうやら、RAGEはがん細胞の転移やアルツハイマー病でも、病気を悪くする方向に働いているようなのです。

5.そんな悪さをするタンパク質がなぜ体の中にあるの?

 世界中の研究者がそれを不思議に思っていました。たぶんなにか役に立っているから進化の過程で失われなかったのだろうけれど、いったいなんの役にたっているのだろうか、と。私たちは、RAGEが外部からの細菌の侵入を防ぐ役割を果たしていることを突き止めました。そして最近になり愛情を伝えるのに大切な分子であることが分かりました。やはり、大事な役割があったのです。しかし、衛生的で、人の寿命が長く、栄養も十分とれるような社会では、本来の体を守る役割よりも、大昔には少なかった糖尿病やアルツハイマー病での悪い役割の方が目立ってしまうのかも知れません。

6.どうすればそういう病気を防げるの?

 マウスと違って人の体からRAGEをなくしてしまうことはできません。しかし、例えば糖尿病の場合だったら、血糖値が高くてもAGEができないようにしてやれば、RAGEの信号が強くなりすぎるのを防ぐことはできます。また、AGEがRAGEに結合するのをじゃまするような薬や、AGEが結合したあと細胞の中に伝えられる信号を途中で止めてしまうような薬も有効と考えられます。世界中でそのような薬の開発が進められています。もちろん私たちも、共同研究でAGEがRAGEのどこに結合するのかを解明することに成功し、その部分にAGEが結合するのをじゃまする薬の研究を進めています。また、RAGEの信号を遮断するために、AGEなどと結合したRAGEタンパク質が細胞の表面でどのように動き、どのような方法で細胞の中に信号を伝えるのかという点も追求しています。
また、私たちはヒトのRAGE遺伝子をくわしく調べているうちに、RAGEタンパク質の細胞の外側につきだしている部分だけ切り取ったようなタンパク質が作られ、細胞の外に送り出されていることを見つけ出し、内因性分泌型RAGE(endogenous secretory RAGE, esRAGE)と名付けました。この分泌型RAGEは細胞の外でAGEと結合しますが、細胞の中に信号を伝える部分がないので信号は伝わりません。結局、細胞からつきだして信号を伝えるアンテナ型(膜型)のRAGEからAGEを横取りすることになり、アンテナ型(膜型)RAGEが強すぎる信号を伝えてしまうのを防いでいるようなのです。私たちは共同研究で血液の中の分泌型RAGEを測定する方法を開発し、糖尿病の患者さんたちの血液中の分泌型RAGEを測ってみました。すると、分泌型RAGEが多い人ほど眼の症状があらわれにくいことがわかりました。こういう人たちは生まれつき分泌型RAGEで血管を守る働きが強いのかも知れません。おもしろいことに、分泌型のRAGEとアンテナ型(膜型)のRAGEは同じ一つの遺伝子から作られています。遺伝子の中の違う部分をつなぎ合わせる、オルタナティブ・スプライシングというしくみによってこのようなことがおこるのですが、私たちはこのオルタナティブ・スプライシングのしくみも研究しており、細胞を守る働きをもつ分泌型RAGEを増やすことによって、さまざまな病気を防ぐことができないかと考えています。

7.いつそういう病気を防げるようになるの?

 私たちの研究が、新しい薬や治療法・予防法として患者さんたちのお役に立つようになるまでには、効果の証明や安全性の確認など多くのステップが必要になります。それが何年後のことになるかはっきりわかりませんが、その日が1日も早く来るように精一杯努力しています。

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